秋ヶ瀬公園――夜の公園で聞こえた声
夏の終わりの夜。
人の気配がほとんどなくなった秋ヶ瀬公園に、数人の若者が訪れた。
昼間は家族連れやランナーで賑わう場所だが、夜になると雰囲気が一変する。
街灯の少ない道を歩いていると、周囲から聞こえるのは木々のざわめきと、遠くを走る車の音だけだった。
「そろそろ帰ろうか」
そう話していた時だった。
林の奥から、
「……うぇ……うぇ……」
という声が聞こえた。
全員が足を止めた。
「今の、何?」
誰も答えない。
耳を澄ます。
すると、また聞こえた。
「うぇ……うぇ……」
まるで赤ん坊が泣いているような声だった。
声のする方向へスマートフォンのライトを向ける。
しかし、そこには誰もいない。
ただ暗い木々が並んでいるだけだった。
「誰かいるんじゃない?」
そう言って近づこうとした瞬間。
泣き声が止まった。
静寂が戻る。
そして――
今度は背後から聞こえた。
「……うぇ……」
全員が振り返った。
当然、誰もいない。
「もう帰ろう」
誰かがそう言った。
そのまま急いで駐車場へ戻った。
車に乗り込み、エンジンをかける。
その時だった。
後部座席から、
コン。
コン。
コン。
と、窓を叩く音がした。
誰も座っていない。
「……今、後ろから音したよね?」
返事はなかった。
もう一度、
コン。
コン。
コン。
今度ははっきり聞こえた。
恐る恐るバックミラーを見る。
暗い後部座席。
そこには何もない。
しかし、窓ガラスの内側に――
小さな手形が残っていた。
「これ……外じゃない」
誰かが震える声で呟いた。
確かに手形は、窓の内側についていた。
その瞬間、車内に赤ん坊の泣き声が響いた。
「うぇぇ……」
全員が凍りついた。
声は車内から聞こえている。
だが、どこを探しても赤ん坊などいない。
急いで車を発進させ、公園を離れた。
しばらく走ると、ようやく泣き声が消えた。
誰も口を開かなかった。
そして翌日。
撮影していたスマートフォンの動画を確認すると、奇妙なことに気づいた。
公園の林を歩いている途中、一瞬だけ画面の端に白い影が映っていた。
それは人の姿に見えた。
しかし、よく見ると――
地面から少し浮いていた。
そして動画の最後。
車に乗り込む直前の映像には、誰もいないはずの後部座席から、
小さな声が録音されていた。
「……帰らないで」
その声を聞いた瞬間、
撮影していた全員が黙り込んだ。
なぜなら、その声は――
公園で聞いた赤ん坊の声ではなかった。
大人の女性の声だった。
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