宇都宮藩処刑場跡――「数える声」
深夜、宇都宮の古い道を歩いていた。
昼間なら何の変哲もない場所だった。
しかし、そこには昔、宇都宮藩の処刑場があったという。
「夜になると、変な声が聞こえるらしいよ」
そう聞かされていた私は、半分は興味本位で、その場所を訪れた。
午前一時を過ぎた頃。
周囲には人影がない。
風もほとんどなく、聞こえるのは遠くを走る車の音だけだった。
スマートフォンのライトを頼りに歩いていると、突然――
「……ひとつ」
背後から、低い声がした。
振り返った。
誰もいない。
気のせいだと思い、再び歩き始める。
「……ふたつ」
今度は、はっきり聞こえた。
声は、すぐ後ろにいるようだった。
怖くなって歩く速度を上げた。
すると、
「……みっつ」
また聞こえた。
その瞬間、スマートフォンの画面が暗くなった。
電池は十分残っている。
何度電源を入れようとしても、画面は真っ黒だった。
そして――
「……よっつ」
声がした。
今度は耳元だった。
私は振り返ることができなかった。
ただ、足元を見ると、地面に奇妙な影が伸びていた。
自分の影ではない。
人の影が、ひとつ。
そして、もうひとつ。
さらに、もうひとつ。
暗闇の中から、何人もの影が私の足元へ集まってきていた。
「……いつつ」
声がする。
私は無我夢中で走った。
何度も転びそうになりながら、来た道を戻った。
ようやく明るい道路まで出たところで、スマートフォンが突然点いた。
画面を見る。
録音アプリが勝手に起動していた。
そこには、さっきまで録音した覚えのない音声ファイルが一件残っていた。
再生すると――
しばらく無音だった。
そして最後に、
「……ひとつ」
低い声が入っていた。
その直後、
「……ふたつ」
「……みっつ」
「……よっつ」
「……いつつ」
声は続いていた。
だが、私は途中で再生を止めた。
なぜなら――
その数え声の最後に、
自分の声が混ざっていたからだ。
「……むっつ」
それから私は、その場所には二度と近づかなかった。
しかし数日後。
深夜、自宅で眠っていると、部屋の外から小さな声が聞こえた。
「……むっつ」
目を覚ました。
誰もいない。
しばらくすると、
「……ななつ」
声は、少しずつ近づいてくる。
そして最後に――
耳元で、こう聞こえた。
「……やっつ」
その瞬間、部屋の電気が消えた。
暗闇の中で、誰かが小さく笑った。
「あと……ひとつ」
翌朝、部屋には誰もいなかった。
ただ、枕元に泥のついた足跡がひとつだけ残っていた。
その足跡は、玄関から入ってきたものではない。
――ベッドの横から、突然現れたように。
そして現在でも、処刑場跡の周辺では、深夜になると人の数える声を聞いたという噂がある。
「ひとつ……ふたつ……みっつ……」
もし夜にその声を聞いても、
決して一緒に数えてはいけない。
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