2016年5月19日木曜日

【不思議な話】親父のところへやってきた訪問者が何者なのか?

407 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] 投稿日:03/03/12 17:56
親父に聞いた話。

 30年くらい前、親父はまだ自分で炭を焼いていた。
 山の中に作った炭窯で、クヌギやスギの炭を焼く。
 焼きにかかると、足かけ4日くらいの作業の間、釜の側の小屋で寝泊まりする。

その日は夕方から火を入れたのだが、前回焼いた時からあまり日が経っていないのに、
どうしたわけか、なかなか釜の中まで火が回らない。ここで焦っては元も子もないので、
 親父は辛抱強く柴や薪をくべ、フイゴを踏んで火の番をしていた。

 夜もとっぷり暮れ、辺りを静寂が支配し、薪の爆ぜる音ばかりが聞こえる。
パチ・・・パチ・・パチ・・・
 ザ・・・ザザザ・・・
背後の藪で物音がした。
 獣か?と思い、振り返るが姿はない。
パチ・・・パチン・・パチ・・パチ・・・
 ザザッ・・・・ザザ ザ ザ ザ ザ ァ ァ ァ ァ ―――――――――――
音が藪の中を凄いスピードで移動しはじめた。
この時、親父は(これは、この世のモノではないな)と直感し、振り向かなかった。
ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  
 音が炭釜の周囲を回りだした。いよいよ尋常ではない。
 親父はジッと耐えて火を見つめていた。
ザ・・・
「よお・・何してるんだ。」
 音が止んだと思うと、親父の肩越しに誰かが話しかけてきた。
 親しげな口調だが、その声に聞き覚えはない。

 親父が黙っていると、声は勝手に言葉を継いだ。
 「お前、独りか?」「なぜ火の側にいる?」「炭を焼いているのだな?」
 声は真後ろから聞こえてくる。息が掛かりそうな程の距離だ。
 親父は、必死の思いで振り向こうとする衝動と戦った。



408 : 407[sage] 投稿日:03/03/12 17:58
声が続けて聞いてきた。
 「ここには、電話があるか?」
 (なに?電話?)
 奇妙な問いかけに、親父はとまどった。。
 携帯電話など無い時代のこと、こんな山中に電話などあるはずがない。

 間の抜けたその言葉に、親父は少し気を緩めた。
 「そんなもの、あるはずないだろう。」
 「そうか。」
 不意に背後から気配が消えた。時間をおいて怖々振り向いてみると、やはり誰も居ない。
 鬱蒼とした林が静まりかえっているばかりだった。

 親父は、さっきの出来事を振り返ると同時に、改めて恐怖がぶり返して来るのを感じた。
 恐ろしくて仕方が無かったが、火の側を離れる訳にはいかない。
 念仏を唱えながら火の番を続けるうちに、ようやく東の空が白んできた。

あたりの様子が判るくらいに明るくなった頃、
 祖父(親父の父親)が、二人分の弁当を持って山に上がってきた。
 「どうだ?」
 「いや、昨日の夕方から焼いてるんだが、釜の中へ火が入らないんだ。」
 親父は昨夜の怪異については口にしなかった。
 「どれ、俺が見てやる。」祖父は釜の裏に回って、煙突の煙に手をかざして言った。
 「そろそろ温くなっとる。」そのまま、温度を見ようと、 釜の上に手をついた。
 「ここはまだ冷たいな・・」そう言いながら、炭釜の天井部分に乗り上がった・・・
 ボゴッ
鈍い音がして、釜の天井が崩れ、祖父が炭釜の中に転落した。
 親父は慌てて祖父を助けようとしたが、足場の悪さと、立ちこめる煙と灰が邪魔をする。
 親父は、火傷を負いながらも、祖父を救うべく釜の上に足をかけた。

 釜の中は地獄の業火のように真っ赤だった。火はとっくに釜の中まで回っていたのだ。
 悪戦苦闘の末、ようやく祖父の体を引きずり出した頃には、
 顔や胸のあたりまでがグチャグチャに焼けただれて、すでに息は無かった。



409 : 407[] 投稿日:03/03/12 18:00
目の前で起きた惨劇が信じられず、親父はしばし惚けていた。
が、すぐに気を取り直し、下山することにした。
しかし、祖父の死体を背負って、急な山道を下るのは不可能に思えた。
 親父は一人、小一時間ほどかけて、祖父の軽トラックが止めてある道端まで山を下った。

 村の知り合いを連れて、炭小屋の所まで戻ってみると、祖父の死体に異変が起きていた。
 焼けただれた上半身だけが白骨化していたのだ。
まるでしゃぶり尽くしたかのように、白い骨だけが残されている。
 対照的に下半身は手つかずで、臓器もそっくり残っていた。
 通常、熊や野犬などの獣が獲物の臓物から食らう。
それに、このあたりには、そんな大型の肉食獣などいないはずだった。

その場に居合わせた全員が、死体の様子が異常だということに気付いていた。
にも拘わらす、誰もそのことには触れない。黙々と祖父の死体を運び始めた。
 親父が何か言おうとすると、皆が静かに首を横に振る。
 親父は、そこで気付いた。これはタブーに類することなのだ、と。

 昨夜、親父のところへやってきた訪問者が何者なのか?
 祖父の死体を荒らしたのは何なのか?
その問いには、誰も答えられない。誰も口に出来ない。
 「そういうことになっているんだ。」村の年寄りは、親父にそう言ったそうだ。

 今でも、祖父の死因は野犬に襲われたことになっている。

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