48 : 上智小劇場1/4[] 投稿日:03/05/02 05:04
東京・四谷にある上智小劇場は、上智大学の中にある小さな劇場です。
大学の中でも一番古い建物である、一号館のどんづまりにあるこの劇場は、
かつてチャペルとして用いられていたのですが、大学紛争時に、学生が演劇活動を
するための場所が必要であると、先日退官されたある神父様が意を決して黒塗りに
してしまったという、いわくつきの場所です。
この劇場に足を運ぶと、そんな往時のチャペルを思わせる内装が目に付きます。
客席を寸断するように並ぶ太くて四角い黒い柱には、チャペルの装飾が施してあります。
実際に芝居をやる僕たちにとっては、ちょっと邪魔っけで、でもなんか伝統を
感じさせてくれるような、不思議な空間を形作るものでした。
49 : 上智小劇場2/4[] 投稿日:03/05/02 05:05
劇場には人の気が集まりやすく、いろいろな怪異も起こりがちだと言いますが、
この上智小劇場もご多分に漏れず、様々な話が伝えられていました。
幼児が客席を走り回って、黒い柱の中に消えたとか。
一人で舞台に残って稽古をしていて、気配を感じて振り返ったら、
無人のはずの客席に満員のお客さんがいたとか。
しっかり固定したはずの重い照明が、さっきまで役者が座っていた舞台の真ん中に
いきなりガシャンと落ちてきたりとか。
そんな場所なので、僕たちは必ず、舞台稽古に入る初日には、舞台に向かって
右側、上手の隅の暗がりにお神酒を備え、舞台の無事と成功をお祈りしたのでした。
カトリック系の大学なのに変な話ですよね。
50 : 上智小劇場3/4[] 投稿日:03/05/02 05:05
その時一緒に舞台に上がっていた女の子の中に、感じやすい人がいました。
僕と同じ新人です。彼女ももちろん、神妙な顔でお祈りに参加していました。
しかしその翌々日、舞台稽古に入って3日目、いよいよ明日は本番という日の
夜7時頃だったでしょうか、稽古中突然、舞台袖の暗がりで、大声で叫んだのです。
「嫌ァ!」
彼女はそういうと腰を抜かして、大声で泣き崩れてしまいました。
舞台監督をしていた先輩も、ただならぬ雰囲気に稽古を中断し、腰を抜かした彼女を
とりあえず照明の当たる舞台中央へと運んできました。彼女はガクガク震えていました。
「あそこ、こわい…なんか、なんかいた気がする!」と半狂乱です。
先輩たちは、結構こういうことに慣れているのか、彼女の肩を抱いて慰めます。
「大丈夫だから、悪さはしないから」
しかしこの時初めて舞台を踏む僕は、彼女が泣いている姿がかわいそうで、そして
彼女を泣かせた存在にマジでむかついて、彼女が怖がった場所にずかずか入っていくと、
「どっかいけ馬鹿野郎!」と暗がりに向けて大声で叫んだのです。
先輩たちは呆れ顔でした。
51 : 上智小劇場4/4[] 投稿日:03/05/02 05:06
その後は彼女も、いろいろ気配を感じつつも落ち着きを取り戻しました。
怪異があろうとなかろうと、舞台の初日は待ってはくれないので、みんなで深夜まで
毎日稽古を続けていました。あっという間に初日、そして楽日(最終日)です。
舞台が進んで、僕の出番。かれ気味の声をだましだまし出して演技をし、なんとか
終了。あとは曲が鳴って、暗転の間に暗闇を5歩歩いて舞台から退場するだけです。
みんな無事に最終日までやり遂げることができた、お客の入りも悪くなかったし、
よかったなぁと思ったその時でした。
真っ暗闇の中で、僕の右足が空を切りました。あるべきところに床がない。落ちる…
と思うまもなく僕は2m近い高さのセットの裏の床へと転落。ものすごい音がしましたが
曲にまぎれてなんとかごまかされました。僕はそのままセットの裏で、激痛で動けない
まま転がっていました。結果、右足首捻挫。ぱんぱんに腫れ上がって松葉杖なしでは
歩くのもままならない状態。楽しみしていた打ち上げにも参加できずに、一人寂しく
帰りました。でもこんな軽症で済んでよかったです。
僕の頭の数センチ脇には、セットの裏の五寸釘が何本も出ていたのでした。
以上、「女の前だからって粋がると大変な目にあう」という話でした。
実話だけどあんま怖くないね。長文スマソ
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