663 : 1/3[sage] 投稿日:2008/04/25(金) 01:58:02 ID:d29FLafl0 [1/3回(PC)]
今から数年前の話だけど。
俺はまだ大学生で、学校近くで一人暮らしをしてた。
俺の部屋はマンションの3階で、窓を開けると隣のビルの壁しか見えなかった。
どうでもいいけど、それが結構気に入っていた。
そんなある日のことだ。
窓を開けっ放しにしてた。夜で、部屋の明かりがぼんやりと白かった。
俺は勉強中で、時々「暑いな」と独り言を漏らしてたと思う。
「暑いな」「暑いな」「暑いな」「暑いな」「暑いな」
「暑いな」
そしてふと
「スズシイ」
と俺が言った。
俺が言ったんだと声を聞いてわかった。
言われてみると、確かに涼しい。涼しくなってる。
空気がひやりとしている。
肌がちくちくする。
口の中が乾いて血の味がする。
何かが俺を見てる。
窓の外に白いものがいる。
664 : 2/3[sage] 投稿日:2008/04/25(金) 01:58:48 ID:d29FLafl0 [2/3回(PC)]
ああいうものってさ。振り返らなくても見えるんだよな。
白いんだ。
腕がないのに指はやたら多くて、それで窓に縋り付いていた。
指が30、40?50?
親指がない。
指が狂ったようにもがいてて顔が白い。口が赤い、でも舌がない。
じっと俺を見ている。
じっと、
けけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
いきなりあれが笑い出した。
俺は凍り付いて振り返ることも出来ない。
窓の方は最初から見ていなかったんだ、だけど見えてるんだ。
開いた口の中には舌の代わりに親指がびっしりと生えていた。
携帯が鳴った。
どうやって携帯を取り出したか覚えていない。
涼しいと俺は言っていた。それと同じような感覚だった。
「いまマンションの前」
友人からメールが来てて、それからはあまり記憶がない。
気が付いたら友人がいた。
あれはずっと笑っていたように思う。
友人は窓に近づいて、手を伸ばして、淡々とあれを突き落とした。
俺の部屋はマンションの3階で、そんな高くないはずなのに
何かがぐちゅっと地面にぶつかる音がしたのは随分と時間がかかった後だった。
呆然としている俺を振り向いて友人が言った。
「メリークリスマス」
無駄に流暢な発音だった。
12月25日の出来事だった。
665 : 3/3[sage] 投稿日:2008/04/25(金) 01:59:24 ID:d29FLafl0 [3/3回(PC)]
友人はあれは「通りすがり」だと言って、「わりと人間に近いんだよな」
くらいしか話してくれなかった。だけどどうしても気になって、
「何であれが急に笑い出したのか」と聞いてみたらこう言った。
「お前は凍り付く。あれは笑う。そーゆーこと」
どーゆーことだよ。
問い詰めたら、「だから」と友人は続けた。かなりどうでも良さげだった。
「怖かったんじゃねーの?」
何がだよ。聞いてみるべきだったかも知れないがそうはしなかった。
友人は頭が良すぎるところがあって、
俺はあいつのそれにはあまり関わりたくなかった。
後で何か残ってるんじゃないかと思って探してみたけど、
窓の下、というか、俺の部屋の窓の下に当たると思われる部分の地面には
何の跡も残ってなかった。
雪は真っ白く、ビルの間に挟まれていて足跡ひとつなかった。
俺は風邪を引いた。
しばらくして雪は溶けた。俺は色々なことを忘れた。
あれの形も今になってはおぼろげで、笑い声などは
俺の彼女のと混ざってるような気もする。
何年も前の話だから仕方ないと思う。だけど、
ただあれに触った時の友人の怠そうな表情がやけに印象に残っている。
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