愛宕神社――夜の坂道で見たもの
福岡市の愛宕神社周辺には、夜になると人通りの少なくなる坂道がある。 昼間は参拝客や車の往来もある場所だが、深夜になると街灯の少ない場所では、辺りが妙に静かになる。 これは、ある男性が友人と二人で愛宕神社を訪れたときの話だ。 二人が神社の近くまで来たのは、夜の十一時を過ぎた頃だった。 「せっかくだし、上まで行ってみよう」 友人にそう言われ、男性も坂道を歩き始めた。 周囲には住宅や道路がある。 完全な山道というわけではない。 それなのに、少し歩いただけで、なぜか人の気配が消えた。 車の音も聞こえない。 風もない。 聞こえるのは、二人の靴音だけだった。 しばらく歩いていると、友人が突然立ち止まった。 「……今、誰かいたよな?」 男性が前を見る。 坂道の先には、誰もいない。 「どこに?」 「今、あそこを横切った」 友人が指差したのは、道路脇の暗がりだった。 男性には何も見えなかった。 「気のせいじゃない?」 そう言って歩き始めた。 ところが数分後。 今度は男性自身が見た。 道路の端に、人が立っている。 白っぽい服を着た人物だった。 背中を向けているため、顔は見えない。 二人が近づくと、その人物はゆっくりと歩き始めた。 「人いたじゃん」 友人が小声で言った。 二人はその後ろを歩いた。 しかし、妙だった。 その人物は、どれだけ歩いても二人との距離が変わらない。 早歩きになれば、向こうも早くなる。 立ち止まれば、向こうも立ち止まる。 男性が試しに足を止めた。 すると―― 前を歩いていた人物も、ぴたりと止まった。 そして、ゆっくり首だけを動かした。 こちらを振り返ろうとしている。 「……やばい」 友人が呟いた。 二人は引き返そうとした。 その瞬間だった。 背後から、 「こっちじゃないよ」 と声がした。 二人とも凍りついた。 声がしたのは、前ではない。 背後だった。 恐る恐る振り返る。 誰もいない。 だが、さっきまで前を歩いていた人物も消えていた。 二人は何も言わず、坂道を下り始めた。 すると今度は、後ろから小さな笑い声が聞こえた。 「……ふふっ」 振り返らない。 二人とも無言で歩き続ける。 ところが、坂道を下りている途中、友人が突然、 「待って」 と言った。 男性が振り向くと、友人が青ざめた顔で道路脇を指差している。 そこに、さっきの人物が立っていた。 今度は正面を向いている。 顔...